冒険家の野望


「岡崎城西高校
陸上競技部長距離」

そこには、
ある野望を持った
冒険家達がいた。

小柳津徹也、
杭全夢丸、
福尾亮
この三人だ。


この話は
本日、午前11時頃の、
彼らの野望への
挑戦の記録である。






今日は祝日で
学校は休みだったが、
当然のように
部活があった。

4分/kmで12000mの
ペース走という、
よくある練習だった。

慣れた練習を無難にこなし、
皆が帰ろうとしていた時、
一人の男が私に
ある提案をした。


「帰りにラーメン食いにいかん?」

杭全夢丸だ。

私は特に用事もなく、
腹も減っていたので
何の気なしに
この誘いにOKを出した。
今思えば、
これが不幸の始まりだった。


その場にいた
福尾亮を誘い、
三人でラーメンを
食べに行くことが決定し、
どこの店に食べに行くか
話していた。

しかし、いつも行くような
無難な店に行くのは
どうかという話になり、
普段いかない穴場を
発見しようという
ことになった。
私達の野望が
生まれた瞬間だった。



学校から2、3分の距離で、
私と杭全夢丸は
毎日通る道にありながら、
周りの人間が誰一人として
行ったことのない
「手打ち餃子亭」
ここに行くことになった。
候補は3つあったが、
1つは猫が異常に
沢山いるという理由で
削除され、
残りの二つから
じゃんけんで決めた。


しかし、情報が何一つ
無い状態で行くのも
あれなので
地元の後輩に聞いてみた。
そしたら、
「あそこはやめた方がいいですよ。
行ったことないですけど
まずいみたいですよ。」
と後輩のS.Hは話した。
この言葉を聞いて
不安にはなったが、
逆にワクワク度が
一気に倍増した。

三人は
「俺らの本拠地になるかもな!」と話しながら
その店に向かった。
思い返すとこんなことを
言っていた自分が
恥ずかしい。


期待に胸を踊らせながら
店についた。
11時30分頃だろうか。
ランチタイム真っ盛りだと
いうのに、
見たところ客は
一人もいなかった。

しかし、
いつもの事だ、と
気にせず店に足を踏み入れた。



まず最初に思ったことは、

暗い。

見た目もそうだが、
とにかく空気が重かった。

店に入ると、
無愛想な男が
薄汚れた服を着て
立っていた。
どうやら夫婦で
経営してるようだ。

特に案内もされなかったので、
適当に奥の方の
席に座った。

少しして、
男が水を持ってきた。
無言で水を置き、
無言で帰っていった。

三人は小声で
「怖え〜」
「雰囲気ヤバい」
などと話していた。



とりあえずメニューを
広げてみる。
一般的な、ラーメンや
炒飯などのメニューが
並んでおり、
何にしようか考えていたら
男がランチメニューを
持ってきた。

表には
「○○飯」(炒飯、中華飯など)

「○○ラーメンのハーフ」(味噌ラーメン、チャーシューめんなど)
とあり、
裏には
「○○ラーメン」

「小ライス」

「おかず二品」

こう書いてあった。
それで700円とは
なかなかお得だ。
種類も多く、
期待感が増した。

だがふと後ろを見ると
少し離れたところから
男がじーっと
メニューを見ている私達を
見つめている。
なかなか不気味だ。


三人がランチメニューを
選んでいるとき、
福尾が店員に声をかけた。
「おかず二品はどこから選べばいいですか?」

確かにどこにも
書いてないから
わかるわけがない。

店員がやってきて
説明を始めた。
「おかずはチヂミですね。」

三人は、
へぇーというような
反応をし、
福尾がもう一度聞いた。
「もう一品はなんですか?」
「チヂミですね。」

三人同時に
(?)という顔をした。


「チヂミと、なんですか?」
「えーっと、チヂミっていう・・・やつですね。」
福尾は聞くのを
諦めた。

今度は私が、できる限り
言葉を選んで
分かりやすいように
質問した。

「おかず二品ってのは、
チヂミと、あともう一品はなんですか?」
「チヂミは・・・えー、白いピザみたいな、あの・・・チヂミですね。」

諦めた。



さっさと注文し、
三人は会話を始めた。
言葉の通じない
店員の影響で
不安感が一気に増した。
「ラーメンに人の指が入って出てきたらどうする?」
「注文受けてからスーパーに買いに行ってそう」
などと話していたら
店員がおぼんを運んできた。

三人で注文した
餃子だった。
学校でこの店の事を聞いた
後輩が言っていたとおり、
羽が生えていた。
よく分からないかもしれないが、
他の伝え方が難しい。

一緒に持ってきた
箸と思われる鉄の棒で
羽をどけて餃子をとると
中々の小ささだった。
机を見ると、
ラー油、塩コショウ、
醤油の様なものが
置いてあったが、
餃子のタレが無い。

三人は醤油の様なものを
皿に入れ、餃子のタレでは
ないかと舐めてみたら
普通に醤油だった。

いきなり失敗を犯したが
タレが無いから仕方がない。
醤油で餃子を食べてみた。

しかし、予想に反して
意外にも美味しい。


この店は見た目はともかく
味は良いみたいだ。
みんなそう思っていた。


その次に
私が頼んだ
「好好飯+チャーシューメン(ハーフ)」が来た。
好好飯とは、
ご飯の上に
トロトロの卵が乗っていて
その上に唐揚げが乗っている料理だ。

ところが、
メニューの写真では
唐揚げが乗っていたのに、
出てきたものには
よくわからない揚げ物が
乗っていた。
しかし、見た目はなかなか
美味しそうで、
そんなことは
気にならなかった。

その後、他の二人の
「チャーシューメン+小ライス+おかず二品」
が来た。
チヂミともう一つの
おかずは、
キャベツの千切りなどの
ちょっとしたサラダだった。


おかしいことに気がついた。
自分の目の前の料理を
よく見ると、
チヂミとサラダが
置いてある。
メニューには書いてない
おかず二品を見て福尾は
「そっちの方がお得じゃん」と言ったので
得した気分で
ラーメンのスープを
飲んだ。
薄っ!と思った。

隣の杭全は
あることに気付いた。

三人のラーメンが
出てきたときから
すでに伸びていた。

その時点でかなりの
マイナス評価だ。

しかし、チヂミを食べた福尾は
「チヂミ美味い」と言ったので
食べてみると
意外にも、餃子に継いで
これもなかなか
美味かった。

三人が次々に
ラーメンを食べ出す。
そして皆が気付いた。
・・・不味い。
食べれば食べるほど不味い。

最初から伸びてるラーメンが
美味いわけもないが
とにかく不味かった。



気を取り直し、
私は好好飯を食べた。

その瞬間、私は
意味がわからなくなった。

二人に味の評価を
伝えたいが、何と言っていいのかわからない。

もう一度食べた。
やっぱりわけが
わからない。

そこで福尾に一口分けた。
その瞬間、
「まっず!!」
と叫んだ。

「これは不味い!
お前これ不味いよ!?」
と言われ、
やっと理解した。

不味すぎて、
味が伝えれなかったのだ。
今思い出しても
吐き気がする。
あの料理に
甘いだの辛いだの、
そんな言葉は存在しない。

不味い。
これだけで全て語れる、
不味さだけを極めた
究極のカス料理だった。


とにかく量を減らすために
杭全にも食べてもらった。
その瞬間、おぇっ、と
見事にえづいた。


そこからはもう
皆料理に対する
非難の嵐だった。

俺の兄ちゃんが食べたら
店員にブチキレるぞ、
俺の方が
まだうまく作れる、
ラーメンって普通
美味いもんだよな?
これはあり得ない。

とにかく悪口しか
でてこなかった。
悪口とは言っても、
全て本音だ。


ブツブツ文句を言いながらも
杭全はラーメンを
完食した。

福尾のラーメンは
2/3は残っていた。

私も、食べれば食べるほど
意味不明な好好飯を
必死に胃に流し込んだが
二口ほど残してしまった。
杭全に分けてもらった
真っ白なご飯が
美味しすぎて
たまらない。


三人は最後まで必死に
抵抗したものの、
結局食べきれずに
終わってしまった。
悔しさでいっぱいだった。


皆が財布から
こんなもののために、
と思いながら金を出している頃、
私は最後の力を振り絞り
好好飯を口に運んだが、

敗北した。

口直しの水が
異常に美味い。

あの料理を食べたあとなら
ドックフードですら
美味しく感じそうな
気がする。


そろそろ席を立ちそうな
こちらを、奥さんらしき人が
じっと見ている。
どこか哀しそうな
表情をしている。

「早く逃げよう」と
席を立ち、
代表で杭全が
金を払った。

私と福尾は、
たっぷりと残った料理を
片付けている女性を
見ていた。

かなり切なかった。


杭全が金を払い終わり、
店から出た三人は
叫んだ。

「チクショーー!!!!!!」


あり得ないほど
外の空気が美味かった。


人生でダントツに
一番不味いラーメンを
経験した三人は
どうしようもない
やるせなさを胸に、
マックへ口直しに向かった。

そこで始めて感じた、
マックの安心感。
絶対にうまい、という
信頼感。

マックポークや
ポテトを食べながら
「美味すぎるー!」
と言っている私達は
周りから見たら少し
おかしかったかもしれない。


やっと落ち着いた三人は
語り始めた。

あの店をこのまま
ほっとくわけにはいかない。

塩水に麺を浸したような
ラーメン、
卵がゴミと化した
好好飯、
思い出すだけで
吐き気を催す
地獄の動物園の
餌のような
あの味をすこしでも
多くの人間に
味あわせて
この負の感情を
共有しよう。


私達はこれから
この新たな野望を
果たすため
様々な手を尽くすだろう。

私達の冒険は
まだ終わらない。


あの店がこの世から
消えるまで・・・

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4 Yonda!

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