に日夜を送ってい

ハイラグリオンという場所は、何がどうなってもやっぱりハイラグリオンだ。
 白い高みの環状宮殿に再び暮らしはじめて、ひと月とたたないうちに、アデイルはしみじみ思うようになった。
 もちろん、大きく動いたものごとはある。中央塔の星の広間に、今ではコンスタンス女王陛下が君臨し、ロウランド家とチェバイアット家が首都メイアンジュリーで合同の凱旋《がいせん》パレードを行ってからは、北とくなっくなっ南の貴族間対立に変化がおきている。
 けれども、この変化がロウ水解蛋白ランド家によい目をもたらすかどうかは微妙で、ことの運びを楽観できるものではなかった。そして、対聖堂関係者においては、一触即発の状態がむしろ強まっている。
 これらすべてを胸中に収め、教皇の告発に値する手紙をその手に握りながら、なお優雅にほほえむレイディ・マルゴットを見るにつけても、これが宮廷だと思わずにいられなかった。表面上はさざなみ一つ立てずに日夜を送っていくのだ。
 環状宮殿のロウランド家の塔で、お茶の時間をアデイルとヴィンセントとともにすごしたレイディ・マルゴットは、なにげない口調で切りだした。
「そういえば、ゆうべの夜会のおり、侯爵様からじきじきに、ユーシスとアデイルをアッシャートンの侯爵邸に招きたいとお申し出をいただいたのよ。あなた、お受けしてみる?」
 アデイルは金茶の瞳を見開き、それからヴィンセントの青い瞳と目を見合わせた。
「……ということは、レアンドラがその希望を?」
 伯爵夫人は上品にうなずいた。
「そうね、よい機会と考え嬰兒敏感たのでしょう」
 アデイルの顔を複雑な思いがよぎった。家族や親友の前で、その表情を隠すつもりはなかったが、マルゴットのほうはあくまで穏やかだった。
「両家の架け橋を担《にな》ったあなたがただから、もう一歩押し進めるのは、世間体を考えても悪いことではないでしょうね。いずれ、伯爵とわたくしも招待されることになるから、その前段としてもね。ですから、ロウランド家として、ユーシスはお誘いをことわれないと思います。ただ、あなたは、気が向かないなら行かなくてもかまわないのよ」
「いいえ、わたくしも行きます」
 アデイルは即座に答え、力みすぎたことに気づいてきゃしゃな肩をすぼめた。
「……ヴィンセントもいっしょに行ってよろしいでしょう?」
「それはもちろん」
 伯爵夫人はにっこりして、アデイ母乳餵哺ルのとなりに座る高貴な顔立ちの少女を見やった。
「あなたは、なるべくハイラグリオンにいないほうがいいのでしょう。アデイルのそばにいてやってくださいね」
「それがわたくしの願いですわ、奥方様」
 相手に負けない気品をもって、ヴィンセント・クレメンシア・ダキテーヌはほほえんだ。
 レイディ・マルゴットが姿を消し、お茶のテーブルが片づけられてから、アデイルはため息をついて言った。
「……少しは経験も積んだし、強て帰ってきたつもりだったけれど、ここにいるとやっぱりだめね。まだまだ下っ端のひよっこで、糸に繰られて動いているという気がしてくるわ」
「選択の余地がないのはたしかね。でも、しかたがない、女王候補を擁立する二家の接近は、国じゅうの注目の的ですもの」
 ヴィンセントは余裕のあるほほえみを見せた。
「わたくしは、この情況を楽しんでいるわよ。アデイルだって、台本を演じる舞台は楽しめるだけ楽しむのがモットーでしょう」
「それはそうだけど……レアンドラはいったい何を考えていると思う?」
 ヴィンセントはおかしそうに、つややかな薄茶の髪をゆすった。
「やっぱり、その点が問題なのね。そうだと思ったけれど。レアンドラが、どのレベルでロウランド家に友好を求めているかということでしょう」
「真面目に考えてよ。あなた、レアンドラがわたくしと仲よくしようと自分の家に招くと、本気で思えるの?」
「思えないわよ、当然ながら」

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